よんなーハウス

鳥が消えた空

僕の部屋の窓が、僕の世界のすべてだった。

子供の頃、この窓から見える電線は、雀たちのための五線譜だった。数えきれないほどの小さな音符がそこに並び、世界はもっと賑やかな音楽で満ちていたように思う。けれど、あの小さな隣人たちは、ある日を境にぷっつりと訪れなくなった。

次に空の主役になったのは、一羽の大きなカラスだった。賢くて、どこかふてぶてしい顔つきのそいつは、決まった時間に向かいの屋根のアンテナにやって来た。僕は勝手に「クロ」と名付け、言葉を交わさない友人のように思っていた。そのクロも、ここ数年は見ていない。もっと居心地のいい場所を見つけただろうか。

鳥たちの声が消えた空は、がらんどうに広い。夏は陽射しが刃物のように部屋の空気を熱し、冬は吐息で曇る窓ガラスに冷気が滲む。

世界が静かになったのではない。まるで僕の時間だけが、あの頃から止まってしまったかのようだ。

もちろん、音はある。耳を澄ませば、パソコンのファンが放つ微かな熱と音。階下の誰かの、壁一枚を隔てた生活の響き。ときおり唸りを上げる冷蔵庫。そんな、取るに足らないものたちが、僕がまだここにいる、という消えそうな証になっている。壁のシミが昨日より少しだけ濃くなったことや、西陽に照らされた窓枠の埃がきらめく様に気づくたび、その証をひとつ、拾い集めるような気持ちになる。

今夜は、月が出ているだろうか。

遮光カーテンを開けるのは、少し怖い。外界との薄い皮膚のようなそれを開けば、眩しい月光と一緒に、僕が失くしてしまった時間が、なだれ込んできそうで。

それでも、固く閉じたカーテンの隙間から、糸のような光が一本、床に落ちている。その光が、部屋の隅に積まれた本の背表紙を、埃をかぶったゲーム機を、静かに、白く照らし出している。

それが、僕だけの静かな月見だ。

©makaniaizu 2024