AIによる第一尚氏から第二尚氏に至る時代の歴史掌編小説
これは、AIとの対話を通じて浮かび上がった、琉球王国の知られざる形成史を基にしたAIによる歴史掌編小説です。
史実の隙間を想像力で埋め、鉄と血の匂いがする荒々しい時代から、祈りと静寂に包まれた洗練の時代へと移り変わる、その劇的な転換点を描きます。
太陽(てだ)の檻、北の海鳴り
東の空が白んでいく。 老いた歌い手、タルーは、知念の岬の突端に立ち、湿った海風に白髪をなびかせていた。足元では太平洋の黒潮が岩を噛み、砕け散る波飛沫が霧となって視界を覆う。
タルーは、習慣のように視線を北へ向けた。 遥か水平線の彼方、肉眼では見えぬ場所に、奄美があり、喜界島がある。彼らの遠い祖先、アマミキヨが鉄と稲穂を携えて渡ってきた、魂の故郷だ。
「北を向いてはならぬ」 ふと、首里から派遣された若い役人の声が脳裏によぎる。タルーは苦笑し、ゆっくりと体を東へ、太陽が昇る久高島の方角へと向け直した。
今、この国では、祈りの方角さえも管理されている。
一、鉄の兄弟たち
タルーの喉には、古い時代の記憶が澱(おり)のように溜まっている。 まだ首里の城が今ほど高くなく、島々が荒々しいエネルギーに満ちていた時代の記憶だ。
その頃、海は自由だった。 中城湾(なかぐすくわん)を挟んで、二人の英雄が対峙していた。中城グスクの護佐丸と、勝連グスクの阿麻和利である。彼らは、佐敷から身を起こし三山を統一した尚巴志王と共に、同じ「北の夢」を見る兄弟のような存在だった。
特に阿麻和利は鮮烈だった。 彼が勝連の港に異国の船を引き入れるたび、見たこともない上質な鉄や、艶やかな陶磁器が溢れかえった。「アマワリ」という響きは、この島々の開祖神「アマミキヨ」と同じく、海の彼方から富をもたらす者の称号のように思えたものだ。
彼らは皆、北の海域にルーツを持つ「同族」だった。言葉に出さずとも、互いの役割を理解していた。尚巴志が中央を束ね、護佐丸が盾となり、阿麻和利が外の世界から富を吸い上げる。その絶妙な均衡の上に、初期の王国は成り立っていた。
だが、均衡は長くは続かない。中央に座した権力は、地方の強すぎる光を疎ましく思うようになる。
二、ルーツ殺し
悲劇は、連鎖した。 まず、護佐丸が討たれた。次いで、阿麻和利が滅ぼされた。首里の王府はそれを「謀反」と呼んだが、タルーたち東海岸の民は知っていた。あれは、王府による富と力の独占欲が招いた身内の共食いだった。
阿麻和利が死んだ夜、勝連の空は三日三晩、赤く燃えたという。 だが、本当の絶望はその後に訪れた。
第一尚氏の最後の王、尚徳(しょうとく)が、あろうことか自らの軍船を率いて、北の喜界島へ攻め入ったのだ。
「王は、ご先祖様の墓に唾を吐くおつもりか」 各地の按司(あじ)たちの間に、戦慄が走った。彼らにとって喜界島は、鉄の源流であり、魂が帰るべき聖域(ニライカナイ)の入口だった。それを武力で蹂躙することは、自らのよって立つ基盤を破壊するに等しい。
タルーはその時、確信した。この王朝は終わる、と。 北のルーツを切り捨てた王に、もはや誰もついてはいかない。案の定、尚徳王は遠征から戻ってまもなく、家臣たちのクーデターによって孤立し、その命脈を絶たれた。
三、静かなる革命
次に王位に就いたのは、金丸――後の尚円王だった。 彼もまた北の出身であり、荒くれた按司たちの心を誰よりも理解していた。
「血は、もう十分に流れた」 新王朝が選んだのは、武力による支配ではなかった。もっと巧妙で、逃げ場のない、精神の檻(おり)による統治だった。
金丸の息子、尚真王の時代になると、その檻は完成を見た。 各地の強力な按司たちは、それぞれのグスクから切り離され、首里の城下への移住を命じられた。彼らは牙を抜かれた獅子のように、王の近くで飼い慣らされた。
そして、何よりも変わったのは「祈り」だった。 それまで、それぞれの島で、それぞれの神(ノロ)が、北や海に向かって捧げていた祈りは禁止された。
「すべての神意は、首里の聞得大君(きこえおおぎみ)を通じて下される」 王の妹が最高神官となり、全国のノロを統括するピラミッドが築かれた。神の言葉すら、王府の官僚組織の一部となったのだ。
四、東へ向かう歌
水平線から、真っ赤な太陽が顔を出した。神の島、久高島が光の道の中に浮かび上がる。 圧倒的な、東の光だ。
新王朝は、人々の意識の座標軸を「北」から「東(あがり)」へと強制的にスライドさせた。太陽が昇る東こそが聖なる方角であり、その太陽の子(てだこ)である国王こそが絶対である、という新たな神話が流布された。
タルーの仕事も変わった。 彼が歌うべき古い叙事詩『おもろさうし』は、王府の学者たちによって編纂し直された。 かつて北の海を讃えた荒々しい言葉は削られ、代わりに、首里の王の徳を讃え、東の太陽を拝むための洗練された言葉が散りばめられた。
あの阿麻和利を讃える歌でさえ、骨抜きにされ、王国の歴史を彩る一つの装飾品として、歌集の隅に押し込められた。
「さあ、歌え」 役人が目で合図する。 タルーは大きく息を吸い込み、新しい時代の「おもろ」を歌い始めた。その声は朗々と響き渡り、東の海へと吸い込まれていく。
それは、平和の歌だった。 四百年の安定を約束する、美しく整えられた、服従の旋律だった。
歌いながら、タルーは心の中でだけ、そっと北を向いた。 あの荒々しくも自由だった時代の、鉄と潮の匂いを、記憶の底で噛み締めながら。
彼の歌声の背後で、今日もまた、北の記憶が静かに封印されていく。 眩しすぎる東の太陽の光に、かき消されていく。