短編: 物へと転生する物語
2024年12月24日
小説には作者が作り出した不思議な世界があります。
それは現実とは全く異質なものです。
もしそれが読者の許容範囲であるのなら、その作者の作り出した世界にそれと自覚して入り、物語を巡ることが、読書の楽しみになるのではと思います。
今回読んだ短編小説ですが、ゴミ屋敷に住む青年と、前世で不幸な人生を送り生まれ変わり、その屋敷に集まってきた様々な物達のお話です。
小説の主人公になる少女は小さな時から、その少女の手から渡される食べ物を誰も食べてくれないことに苦しんでいて、小学の時に母親が亡くなるのですが、その母親ですら最後に食べたいと言ったお寿司を、少女の手からは食べてくれませんでした。
それから少女は叔父叔母の家に行くのですが、中学になると問題児となり、そういう子達を集めた施設のお寺に預けられます。
そこで少女は先生であるお坊さんに、誰もあなたの手からものを食べないのは、あなたの手が汚いからではなく、綺麗すぎるからだと言われ立ち直っていくかに見えたのですが……
その施設を退所する直前に不慮の事故で亡くなります。
森の中で亡くなったのですが、そのときにやってきた狸に自分の命が危ういというのに、ポケットの中にあったチョコを差し出します。
しかし狸は食べることなく去り、少女はどうしてみんなわたしから食べないのだろう、おかしいや、と笑いながら泣き、そして亡くなります。
次に少女は割り箸に生まれ変わります。
そしてくだんのゴミ屋敷で、少女の転生割り箸を捨てきれない青年に使われて、何度も食べ物を、その手(割り箸)から青年の口へと運びます。
他の者達の転生した物達も、割り箸になった少女同様に、前世のトラウマを青年により癒やしてもらいます。
ただ当の青年は、何故自分がこの物達を捨てきれないのかがよく分からないようでした。
そして時は過ぎて、役所が家にやってきて、代執行という手段で強引にゴミ屋敷を解消しようとしてきます。
しかし生まれ変わりの物達は、青年と引き離されることに我慢できずに、いっそのこと死んでしまおうと、自分(物)たちでゴミ屋敷に火を付けてしまいます。
もちろんこれは現実にあってはいけません。
でもこれが小説の中の世界です。
それを分かった上で、物語のことを色々と考えてみることが、この読書の楽しみだと思います。