個人的動機から始まる社会貢献活動の隘路と可能性:当事者によるボランティア団体設立における構造的課題と持続可能な組織設計への指針
当事者が立ち上げるボランティア団体の持つ困難さをGoogle の DeepResearch を使いまとめてもらいました。
=== 以下がそのレポートです ===
序論:当事者性と公共性の交差点
「自身の直面する困難を解決したい」「同じ苦しみを持つ人々を支えたい」。このような個人的かつ切実な動機は、社会を変革する上で最も真正で強力なエネルギー源の一つです。歴史を振り返れば、多くの社会貢献活動や市民運動が、名もなき個人の「困りごと」からその第一歩を踏み出していることがわかります。この個人的な情熱が、他者への共感を呼び、集団的な行動へと発展する時、社会は新たな価値と解決策を手にします。
しかし、この純粋な動機が「ボランティア団体」や「NPO法人」という公的な性格を帯びた組織の器(うつわ)に注がれる時、本質的なジレンマが生じます。それは、個人の救済や特定のグループの利益(私益・共益)を目的とする活動が、いかにして社会全体の不特定多数の利益(公益)に資する活動へと変容し、社会的な信頼を得て持続可能な組織となりうるか、という根源的な問いです。善意や情熱だけでは乗り越えがたい、構造的な課題、すなわち「隘路」が存在するのです。
本報告書は、まさにこの隘路に焦点を当てます。単なる団体設立のノウハウを解説するものではありません。特定の社会課題の「当事者」が、その経験をバネに団体を設立しようとする際に直面するであろう問題点を、理念、法制度、組織運営、そして社会心理という多角的な視点から網羅的に分析し、その構造を解明することを目的とします。そして、問題点の単なる列挙に留まらず、当事者性という比類なき強みを活かしながらも、これらの課題を乗り越え、社会的に信頼され、持続可能な組織を構築するための戦略的指針を提示します。本報告書が、熱意ある設立準備者にとって、情熱を持続可能な力へと転換するための一助となることを期待します。
第1部:理念のディレンマ —「私益」の追求から「公益」の実現へ
活動の根幹をなす「理念」は、組織の羅針盤です。しかし、「自分の困りごと」という極めて個人的な動機から出発する当事者団体は、その理念を構築する過程で、深刻な哲学的・倫理的課題に直面します。この部では、その課題を深掘りし、個人的動機を社会的なミッションへと昇華させるプロセスを考察します。
1.1. 公益・共益・私益の峻別とNPOの本質
ボランティア団体、特にNPO(非営利組織)として社会的な活動を展開しようとする際、まず理解すべきは、その活動がどのような「利益」を追求するのかという点です。利益の概念は、大きく「公益」「共益」「私益」の三つに分類されます 1。
- 私益 (Private Interest): 一個人、あるいは特定の単一組織の利益を指します 1。まさに「自分の困りごとを解消する」という初期動機は、この私益の領域から出発します。
- 共益 (Common Interest): 組織の構成員相互の利益や、特定の共通の利害関係を持つ人々のための利益を指します 1。例えば、同窓会や町内会のように、会員を限定し、その会員のための相互扶助を目的とする活動がこれにあたります 1。
- 公益 (Public Interest): 社会全体の利益、すなわち不特定多数の第三者の利益を指します 1。NPOの活動は、この「公益性の高い活動」をその本質とします 2。
NPO法人が追求すべき「公益」とは、特定の個人や団体(私益)、あるいは閉じた会員グループの利益(共益)を目的としないことを明確に要求します 1。例えば、「○○君を助ける会」のように対象が特定されている場合や、「○○学校の卒業生」のように加入資格が限定されている場合は、厳密な意味での公益活動とは見なされにくい側面があります 1。
したがって、「自分の困りごと」を解決するために団体を立ち上げる場合、最初の大きな壁は、この理念の転換にあります。活動の目的を、設立者個人の問題解決という「私益」の段階に留めるのではなく、同じ課題を抱える不特定多数の人々が共有する社会的な問題であると再定義し、その解決を通じて社会全体の利益に貢献するという「公益」の次元へと接続させることが不可欠です。この理念の昇華なくして、社会から広く支持され、公的な支援を受けるに足るNPOとしての正当性を得ることは困難です。
1.2. 動機のパラドックス:目的達成がもたらす組織の危機
当事者による団体設立には、その動機の純粋さゆえの深刻なパラドックスが内包されています。それは、設立の根源的な目的であった「困りごと」が解決された瞬間に、組織がその存在意義(レゾンデートル)を失いかねないという危機です。
セルフヘルプグループ(SHG)の運営に関する調査では、この問題が具体的に指摘されています。多くのグループが直面する課題として、「(介護の終了・病気の回復など)抱えている問題が解決したり、状況が変わると辞めるメンバーが多い」という現実があります 3。これは、活動への参加動機が個人の問題解決に強く結びついているために起こる必然的な現象です。設立者や中心メンバーの課題が解決した時、彼らの活動へのモチベーションは低下し、最悪の場合、組織は求心力を失い、自然消滅に至る可能性があります。
さらに、一部のセルフヘルプグループは、「単に自身の抱える生きづらさから逃避する場、傷のなめ合いの場でしかないと批判されるものもある」と指摘されています 4。このような状態は、外部からの支援や共感を得にくくするだけでなく、組織の発展を停滞させる要因となります。
この「目的達成の危機」の根底には、組織が掲げる目的の性質に関する重要な問題が横たわっています。組織の目的が「特定の個人の困りごとを解決する」という静的な目標(一度達成されれば終了する性質を持つ目標)に設定されている場合、その組織は本質的に脆弱です。個人の状況は常に変化し、問題が解決すればメンバーは組織から離脱するため、組織の存続基盤は極めて不安定になります。
この脆弱性を克服するためには、組織の目的を、個人の状態変化への依存から切り離し、より普遍的で継続的な社会的ミッションへと転換する必要があります。すなわち、「同様の課題に直面する人々を継続的に支援する体制を構築する」あるいは「この社会課題そのものをなくすための啓発活動や政策提言を行う」といった、永続的に追求すべき動的なミッションを掲げることが、持続可能な組織への鍵となります。これは、組織の焦点を個人の救済から、社会構造の変革へと移すプロセスに他なりません。
1.3. ミッションの普遍化:個人的経験を社会的資産へ
設立者の個人的な経験は、何物にも代えがたい組織の資産です。その経験から紡ぎ出される言葉は、人々の心を動かし、共感を呼び、活動への信頼性を付与します。しかし、組織が設立者個人の物語に依存し続けることは、長期的な視点で見れば大きなリスクを伴います。持続可能な組織となるためには、その個人的な経験を普遍的な社会的資産へと転換する「ミッションの普遍化」というプロセスが不可欠です。
このプロセスは、ひきこもり経験者による当事者活動の研究で示唆されている「自己のポジショナリティに自覚的に向き合う主体」としての当事者性のあり方と深く関連しています 5。これは、自身の経験を単なる主観的な苦しみとして捉えるだけでなく、社会的な文脈の中に客観的に位置づけ、その構造的な要因を分析しようとする姿勢を意味します。
具体的には、以下のような問いを立て、ミッションを練り上げていく作業が求められます。
- 「私のこの『困りごと』は、なぜ生じたのか?」
- 「私と同じような経験をしている人は、社会にどれくらい存在するのか?」
- 「この問題を生み出している社会の仕組みや制度、文化的な背景は何か?」
- 「私たちの団体は、この社会構造に対して、どのように働きかけることができるのか?」
このような問いを通じて、個人的な体験談は、客観的なデータや社会分析に裏打ちされた「社会的課題」として再定義されます。そして、「私が救われたい」という個人的な願いは、「誰もがこのような困難に直面することのない社会を創造する」という普遍的なミッションへと昇華されます。このプロセスを経て初めて、組織は設立者の個人的な存在を超越し、社会的な公器としての正当性と永続性を獲得することができるのです。
第2部:制度的障壁 — 法と現実の狭間で
理念を社会的なミッションへと昇華させたとしても、それを実行するための組織形態、特に法人格を取得する段階で、具体的な制度的障壁に直面します。ここでは、ボランティア団体が特定非営利活動法人(NPO法人)として公的に認められるために乗り越えなければならない法律上の要件と、それが当事者団体にとってなぜ特に困難となりうるのかを分析します。
2.1. NPO法人格という選択:要件の背後にある「公」からの要請
NPO法人格を取得することは、社会的信用を高め、助成金の申請や寄付金の受け入れを容易にするなど、多くのメリットをもたらします 6。しかし、その対価として、特定非営利活動促進法(NPO法)は、組織に対して厳格な要件を課しています。これらの要件は単なる手続き上のハードルではなく、それぞれが組織の「私物化」を防ぎ、その活動が真に「公益」に資するものであることを担保するための制度的装置として機能しています。
- 10人以上の社員の確保: NPO法人には、総会での議決権を持つ「社員」が10人以上必要です 6。これは、団体の意思決定が特定の個人や少数のグループによって独占されることを防ぎ、その活動が「多くの市民が非営利の目的のために力を合わせて活動する団体」であることを法的に保証するための要件です 9。
- 営利を目的としないこと(利益の非分配): NPO法人は収益事業を行うことができますが、そこで得た利益を役員や社員に分配することは固く禁じられています 2。利益は、あくまで団体の非営利活動を継続・発展させるために再投資されなければなりません 8。これは、活動の目的が金銭的な利益追求ではなく、社会貢献にあることを明確にするための根幹的な原則です。
- 役員の親族制限: NPO法では、「役員の総数の3分の1を超えて」配偶者および三親等以内の親族が含まれてはならない、と厳格に定められています 7。この規定の意図は、理事会などの意思決定機関が特定の家族によって支配され、組織が私物化されることを防ぐことにあります 9。身内で役員を固めてしまうと、公正な組織運営が妨げられ、「公益の増進」というNPOの根本理念に支障をきたす可能性があるため、このような制限が設けられているのです 9。
これらの規定は、NPO法が、特定の利害関係に縛られない、自律的で理性的な市民が公共の利益のために集うという、ある種の「理想の市民像」を前提としていることを示唆しています。しかし、「自分の困りごと」を解決するために立ち上がる当事者団体は、その設立初期段階において、家族や親しい友人といった、極めて個人的で情緒的なつながりに強く依存することが少なくありません。最初に支援を求め、共に活動を始めるのは、多くの場合、最も身近な人々です。
ここに、法が求める「理性的な公的組織」の理想像と、当事者が自然に形成する「情緒的な共同体」の現実との間に、深刻な乖離が生まれます。特に親族制限の規定は、この情緒的な共同体から公的な組織へと脱皮することを、法的に強制するメカニズムとして機能します。設立者は、個人的な信頼関係に頼るだけでなく、理念に共感してくれる多様な背景を持つ人々を組織に迎え入れ、より開かれたガバナンス体制を構築するという、意識的な努力を求められるのです。この転換は、多くの当事者団体にとって、最初の大きな試練となります。
2.2. 設立プロセスの時間的・心理的コスト
NPO法人設立のプロセスは、法的な要件を満たすだけでなく、相当な時間と労力を要します。各種書類を所轄庁に提出してから認証されるまで、最低でも3ヶ月から半年程度の期間がかかるのが一般的です 6。この期間には、定款の作成、事業計画書や活動予算書の策定、役員や社員の名簿準備など、膨大で緻密な書類作成作業が含まれます 10。
この時間的・事務的なコストは、当事者である設立者にとって、単なる負担以上の心理的な障壁となりえます。「今すぐこの苦しみを何とかしたい」「一刻も早く支援活動を始めたい」という切迫した初期衝動と、法制度が要求する冷静で時間のかかる手続きとの間には、大きな温度差が存在します。このギャップは、設立者の情熱を削ぎ、活動開始への意欲を減退させる可能性があります。
特に、当事者自身が心身に不調を抱えている場合や、日々の生活に追われている場合には、この煩雑なプロセスを一人で乗り切ることは極めて困難です。「相談できる人や協力してくれる人を少しずつ増やし、設立実現に向けて動くことが大切」であり、時には行政書士などの専門家の助けを借りることも有効な選択肢となります 10。設立を志す者は、目の前の課題を解決したいという短期的な情熱と、社会的に信頼される組織を築くという長期的な視点、そしてそのために必要な手続きを着実に進める忍耐力の両方を持ち合わせる必要があるのです。
表1:団体形態の比較分析:任意団体と特定非営利活動法人(NPO法人)
ボランティア活動を開始するにあたり、設立者は「すぐにでも活動を始めたい」という思いと、「社会的な信用を得て活動を拡大したい」という思いの間で、最初の戦略的な選択を迫られます。その選択肢が、法人格を持たない「任意団体」として活動するか、NPO法に基づく「特定非営利活動法人」を目指すかです。以下の表は、両者の特徴を比較し、その意思決定を支援するためのものです。
比較項目 | 任意団体 | 特定非営利活動法人(NPO法人) |
法的地位 | 法人格なし。代表者個人の団体と見なされる。 | 法人格あり。団体名義での契約や資産保有が可能。 |
設立の容易さ | 非常に容易。規約を作成し、仲間が集まれば即日設立可能。 | 複雑。法廷の書類を作成し、所轄庁の認証が必要(3〜6ヶ月)6。 |
社会的信用 | 相対的に低い。団体としての公的な証明が難しい。 | 高い。法に基づき設立され、情報公開義務があるため。 |
資金調達の選択肢 | 限定的。助成金の種類が限られ、寄付金控除の対象外。 | 多様。多くの助成金に応募可能。認定NPO法人になれば寄付金控除の対象となる。 |
ガバナンス要件 | 法的義務なし。内部の規約に依存。 | 法的義務あり。社員総会、理事会の開催、監事の設置が必須 7。 |
事務・報告負担 | 軽い。内部での会計報告が中心。 | 重い。毎事業年度終了後、事業報告書等を所轄庁に提出する義務がある 12。 |
情報公開義務 | なし。 | あり。事業報告書、決算書類、役員名簿などを市民に公開する義務がある 13。 |
資産の帰属 | 代表者個人の資産と見なされるリスクがある。 | 法人の資産として明確に区分される。 |
この表が示すように、両者には明確なトレードオフの関係が存在します。「設立の容易さ」と「運営の自由度」を最優先するならば任意団体が適していますが、その場合、「社会的信用」や「資金調達能力」において大きな制約を受けます。一方で、NPO法人化は、組織の安定性と成長の可能性を飛躍的に高めますが、その引き換えに、設立時の多大な労力と、継続的な事務負担、そして厳格なガバナンスと情報公開の義務を負うことになります。
したがって、設立者は自団体の発展段階、活動の規模、そして利用可能なリソース(人的・時間的資本)を冷静に分析し、どのタイミングで、どの組織形態を選択するのかを戦略的に判断する必要があります。多くの団体は、まず任意団体として活動を開始し、実績を積み、組織基盤が固まった段階でNPO法人化を目指すというステップを踏んでいます。
第3部:組織運営の陥穽 — 内部から崩壊するリスク
無事に団体を設立できたとしても、本当の挑戦はそこから始まります。特に当事者団体は、その成り立ちに起因する特有の脆弱性を抱えており、組織内部の運営上の問題によって活動が停滞、あるいは崩壊するリスクに常に晒されています。この部では、ガバナンス、人的資源、財政、そしてルールメイキングという四つの側面から、その構造的な陥穽を明らかにします。
3.1. ガバナンスの形骸化:善意が招く独裁と不透明性
NPO法人には、最高意思決定機関である「社員総会」、業務執行を担う「理事会」、そしてそれらを監査する「監事」という、組織の健全性を保つためのガバナンス構造が法的に定められています 11。理事会や総会を開催し、その議事録を適切に作成・保管することは、意思決定プロセスの透明性を確保するための基本的な義務です 7。
しかし、設立者の情熱とリーダーシップが極めて強い当事者団体では、このガバナンスが形骸化しやすいという深刻な問題を抱えています。活動の初期段階において、設立者の強力な推進力は組織を前進させるエンジンとなります。しかし、その力が過剰になると、他の役員やメンバーの意見を封じ、あらゆる意思決定を独占する、いわゆる「創業者症候群(Founder's Syndrome)」に陥る危険性があります。理事会は設立者の決定を追認するだけの儀式となり、監事は理事の業務執行や会計をチェックするという本来の役割を果たせなくなります 14。特に小規模な団体では、役員が単に「名前を借りる」だけで実質的な関与をしないケースも見られ、適正な運営が困難になります 11。
このような状態は、善意に基づいていたとしても、結果として組織の私物化と不透明性を招きます。例えば、会計処理が不適切であったり、団体の資金が目的外に使用されたりしても、内部のチェック機能が働かないため、問題が発覚した時には手遅れになっている可能性があります。
当事者団体は、しばしば「私たちは同じ痛みを知る仲間であり、信頼で結ばれているから、形式的なルールや手続きは不要だ」という考えに陥りがちです。確かに、初期の少人数グループにおいては、個人的な信頼関係に基づく非公式な運営が効率的に機能することもあるでしょう。しかし、組織が成長し、多様な背景を持つ新しいメンバーが加わるにつれて、この「個人的信頼」は必ず限界を迎えます。新メンバーは、創設メンバー間の「あうんの呼吸」や暗黙の了解を共有していません。
この時、議事録の作成や監事による監査といった「形式的ガバナンス」の重要性が浮かび上がります。これらは、メンバー間の信頼関係を疑ったり、代替したりするためのものではありません。むしろ、多様な人々が関わる組織において、信頼を維持し、再生産するための不可欠な社会基盤なのです。意思決定のプロセスが議事録として記録されていなければ、なぜその決定がなされたのかが不透明になり、新メンバーは疎外感を抱き、組織内に不信感が生まれます。形式的ガバナンスは、組織が「顔の見える関係」を超えてスケールアップし、持続するための「信頼のインフラ」として機能するのです。
3.2. 人的資源の枯渇:「献身」への依存とその限界
当事者団体の活動は、しばしば中心メンバーの並外れた「献身」によって支えられています。「困っている人を助けたい」という純粋な善意と、当事者ならではの強い責任感が、彼らを自己犠牲的な活動へと駆り立てます。しかし、この献身に過度に依存した組織モデルは、極めて脆弱であり、持続可能性を著しく欠いています。
セルフヘルプグループが共通して抱える悩みとして、「一部のメンバーに負担が偏ってしまう」という問題が筆頭に挙げられています 3。役割分担や業務プロセスが明確に定められていないため、結果的に最も熱意と責任感のある特定の個人に、事務作業、相談対応、イベント企画など、あらゆる業務が集中してしまいます。
さらに深刻なのは、その中心メンバー自身が障がいや病気を抱える当事者である場合が多いという点です。「コアメンバーの多くは当事者であるため、体調により活動が不安定になる」という現実は、組織運営の継続性を常に脅かします 3。また、「昼夜を問わず相談の電話が入るが、当事者同士その苦しみがわかるので応じてしまい、休めない状態が続いている」といった状況は、心身の「燃え尽き(バーンアウト)」を招き、最も組織に不可欠な人材が活動から離脱してしまうという最悪の事態を引き起こしかねません 3。
これは、個人の意志の弱さや能力の問題では断じてありません。むしろ、特定の個人の善意と自己犠牲に寄りかかることでしか成り立たない、組織設計そのものの構造的欠陥です。持続可能な組織を目指すのであれば、個人の献身に感謝しつつも、それに依存しない仕組みを構築する必要があります。業務の標準化、明確な役割分担、新規メンバーへの権限移譲、そして何よりも、活動するメンバー自身の心身の健康を守るためのルール(例えば、相談対応の時間制限や、必ず休暇を取る制度など)を設けることが急務となります。
3.3. 財政基盤の脆弱性:非営利と自立の両立の難しさ
活動を継続し、社会的なインパクトを拡大していくためには、安定した財政基盤の確立が不可欠です。しかし、多くの当事者団体は、この資金調達の面で大きな困難に直面しています。セルフヘルプグループを対象とした調査では、「資金」の問題が「活動メンバーの不足」と並んで、半数以上の団体が抱える主要な課題であることが示されています 3。
多くの団体の収入源は、会費、寄付、そして行政や民間財団からの助成金に大きく依存しています 3。これらの収入は不安定であり、特に助成金は単年度で終了することが多いため、長期的な事業計画を立てる上での大きな制約となります。また、活動テーマが社会的に認知されていない場合、助成金の対象になりにくかったり、寄付が集まりにくかったりするという問題もあります 3。
こうした財政的な脆弱性を克服するため、独自の収益事業に乗り出す団体も増えています。しかし、ここにも大きな壁が立ちはだかります。まず、NPO法人が収益事業を行う場合、その事業で得た収益は、あくまで本来の非営利活動を支えるために使われなければならず、利益を分配することはできません 8。この「非営利性」の原則を遵守しながら、事業としての採算性を確保するビジネスモデルを設計することは、専門的な知識なしには非常に困難です。
さらに、NPOの会計処理は、一般企業とは異なる独特の複雑さを持っています。特に、収益事業を行う場合は、「収益事業」と「それ以外の非営利事業」とで会計を明確に区分する必要があり、事務作業が煩雑化します 13。また、収益事業で利益が出た場合には法人税が課される可能性もあり、税務に関する専門知識も求められます 13。多くのNPOが、この複雑な会計・税務処理に苦労しており、専門家への相談が不可欠な領域となっています 13。善意や情熱だけでは、この財政的な壁を乗り越えることはできないのです。
3.4. ルールの不在が招く混乱:暗黙知から形式知へ
団体の設立当初、創設メンバーが数名しかいない段階では、多くの事柄が「暗黙の了解」や「あうんの呼吸」で決められていきます。会議の進め方、役割分担、お金の使い方など、いちいち明文化しなくても、お互いの信頼関係の中で物事がスムーズに進むように感じられます。
しかし、組織が成長し、設立の経緯を直接知らない新しいメンバーが参加するようになると、この「ルールなき運営」は、必ず内部対立や混乱の火種となります。例えば、以下のような問題が頻発するようになります。
- 意思決定の不透明性: 「なぜ、あの事業にだけ予算がつくのか?」「誰が最終的な決定権を持っているのか?」といった疑問が生まれ、一部のメンバーによる密室での決定ではないかという不信感が募ります。
- 会員資格の曖昧さ: 「会費を払っていない人も、総会で議決権があるのか?」「新しいメンバーはどういう手続きで受け入れるのか?」といった基本的なルールが不明確だと、入会や退会をめぐるトラブルが発生します。
- 会計処理の恣意性: 経費精算のルールがなければ、何が活動に必要な経費で、何が私的な支出なのかの線引きが曖昧になります。これは、金銭をめぐる深刻な対立の原因となり、組織の信頼を根底から揺るがします。
こうした混乱を防ぐために不可欠なのが、団体の基本的なルールを定めた「規約」や「会則」の作成です。規約には、団体の名称、目的、活動内容といった基本事項に加え、会員の種別と権利義務、役員の選出方法と任期、総会や理事会の開催方法と議決要件、そして会計年度や会費に関する規定などを明文化することが推奨されています 16。
規約を作成するプロセスは、単に形式的な文書を作る作業ではありません。それは、メンバー全員で「私たちはどのような団体でありたいのか」「私たちはどのような価値観を共有し、どのようなルールに基づいて協力していくのか」を徹底的に議論し、これまで「暗黙知」であった組織の価値観や運営原則を、誰もが参照できる「形式知」へと転換する、極めて重要なプロセスです。この土台があって初めて、組織は多様な人々を受け入れ、公正で安定した運営を実現することができるのです。
第4部:当事者活動の社会心理学的ダイナミクス
組織運営の技術的な課題に加え、当事者団体は、その成り立ちに由来する特有の集団心理や、外部社会との関係性の中に潜む、より根深く複雑な課題に直面します。この部では、その社会心理学的なダイナミクスを掘り下げ、見えざるリスクを考察します。
4.1. 内集団バイアスと排他性:「共感」が生む諸刃の剣
「同じ悩みを持つ者同士」という強い連帯感と共感は、当事者団体が持つ最大の強みです。それは、メンバーがお互いを支え合い、孤立から救い出すための強力な基盤となります。しかし、この強みは、時として「諸刃の剣」となり、組織を内向きで排他的なものに変えてしまう危険性をはらんでいます。
社会心理学で「内集団バイアス」と呼ばれる現象があります。これは、人々が自分が所属する集団(内集団)のメンバーを、それ以外の集団(外集団)のメンバーよりも肯定的に評価し、ひいきする傾向を指します。当事者団体においては、「当事者としての経験を共有しているかどうか」が、内集団と外集団を分ける強力な境界線となりえます。
学術的な研究においても、当事者活動における集合的なアイデンティティの形成は、その活動に効果的である一方で、その在り方によっては「集団の閉鎖性をもたらすことが懸念される」と明確に指摘されています 22。この閉鎖性は、具体的に以下のような形で現れます。
- 新規参入者への壁: 新しく参加しようとする人々が、たとえ同じ課題を抱えていたとしても、創設メンバー間の濃密な人間関係や共有された「暗黙の歴史」の中に入れず、「部外者」として疎外感を感じてしまう。
- 異論の排除: 組織の運営方針や活動内容に対して、内部から建設的な批判や異なる意見が出た際に、それが「仲間への裏切り」や「当事者意識の欠如」と見なされ、人格攻撃にまで発展してしまう。
- 外部からの協力の拒絶: 専門家や行政、あるいは当事者ではないボランティアからの支援の申し出に対して、「あなたたちに私たちの苦しみは分からない」という意識が働き、協力関係を築く機会を自ら閉ざしてしまう。
このような排他性が組織内に蔓延すると、新しい視点やアイデアが生まれなくなり、組織は自己革新の機会を失います。そして、社会から孤立した、いわゆる「タコツボ」のような状態に陥り、その社会的影響力を著しく低下させてしまうのです。強い共感と連帯感を維持しつつも、いかにして組織の風通しを良くし、外部に対して開かれた姿勢を保つか。これは、すべての当事者団体が向き合わなければならない、極めて重要な課題です。
4.2. 専門職との緊張関係:「経験知」と「専門知」の衝突
当事者団体が活動を展開する上で、医師、ソーシャルワーカー、弁護士、研究者といった専門職との連携は、多くの場合不可欠です。専門職の持つ体系的な知識や技術(専門知)は、団体の活動に科学的な根拠を与え、サービスの質を高め、社会的な信頼性を向上させる上で大きな力となります。
しかし、現実には、当事者団体と専門職との間に、深い溝や緊張関係が存在することも少なくありません。セルフヘルプグループの研究では、当事者側が「専門家主導の運営・実践を危険視」する傾向があり、「専門職に依存すると、セルフヘルプ・グループの成長が妨げられる」という強い懸念を抱いていることが示されています 23。一方で、専門職側にも、当事者団体を「何をするか分からない、危険なグループ」と見なしたり、当事者の持つ経験知の価値を認めなかったりする姿勢が見られることがあります 24。
この対立の根底にあるのは、単なる感情的なすれ違いや相互不信だけではありません。それは、知識のあり方や支援の主導権をめぐる、非対称な権力関係(パワーポリティクス)の問題です。伝統的な支援モデルにおいては、「知識を持つ専門職が、知識を持たない当事者を支援する(教える、導く)」という、明確な上下関係が存在しました。当事者団体は、この非対称な権力関係に対する抵抗として、「支援される客体」から「自らの問題を自らの力で解決する主体」へと転換しようとする運動の側面を持っています。
したがって、この根深い対立構造を乗り越え、専門職と建設的な協力関係を築くためには、戦略的なアプローチが不可欠です。当事者団体は、専門職に対して、単に助言を一方的に求める「教え子」のような立場を取るべきではありません。むしろ、対等なパートナーとして、自団体のニーズを明確に提示し、専門職の協力によって得られるメリットと、団体側が提供できる価値(例えば、当事者の生の声や、新たな研究への協力など)を対等に交換する、という姿勢が求められます。ある研究では、専門職とは「インフォーマルな合意」ではなく、役割や責任範囲を明確にした「契約」を結ぶべきだと提言されています 24。
これは、支援されるだけの受動的な存在から、多様な社会資源の中から必要なサービスを主体的に選択し、活用する能動的な主体へと、当事者団体自身が意識を変革することを意味します。この主体性の確立こそが、専門職との健全なパートナーシップを築き、団体の自律性を守る上で極めて重要な鍵となるのです。
4.3. 「当事者」であることの二重性:真正性の源泉と客観性の足枷
「当事者であること」は、団体の活動の正当性と社会への説得力を支える、最も重要な基盤です。メディアで語られる時も、行政に陳情する時も、寄付を募る時も、その言葉に力が宿るのは、まさに語り手が「経験者」だからです。この真正性(オーセンティシティ)は、他の誰にも真似のできない、当事者団体ならではの価値の源泉です。
しかし、この「当事者性」には、もう一つの側面が存在します。それは、客観的な判断を曇らせる「足枷」となりうるという側面です。ある学術的研究では、当事者性には二つの水準があると分析されています。一つは、自己の経験や立場に強く同一化し、そこから発言する「位置的主体化を果たす主体」としての当事者性。もう一つは、自己の経験や立場を客観的に見つめ、その意味を模索し続ける「問題経験の主体」としての当事者性です 5。
組織のリーダーや中心メンバーが、前者の「自己の経験への同一化」に過度に埋没してしまうと、いくつかの問題が生じる可能性があります。
- 経験の絶対化: 自らの経験を唯一絶対の真実と見なし、統計データや科学的研究といった客観的な情報、あるいは自分とは異なる経験をした他の当事者の声を軽視・無視してしまう。
- 感情的な意思決定: 組織の運営において、冷静な損得勘定や長期的な戦略よりも、個人的な感情や過去のトラウマに基づいた判断を優先してしまう。
- 共感疲労と代理トラウマ: 他の当事者の苦しみに深く共感しすぎるあまり、精神的に疲弊し、あたかも自分が同じ体験をしたかのような心理的ダメージ(代理トラウマ)を負ってしまう。
持続可能な組織を運営していくためには、リーダーは、この当事者性の二重性を自覚的に認識し、状況に応じて二つの役割を使い分ける必要があります。支援の現場や広報活動の場では、「当事者」として自身の経験を熱く語り、人々の共感を呼ぶことが求められます。しかし、理事会で事業計画や予算を審議する際には、一旦その立場から距離を置き、組織全体の状況を冷静に俯瞰し、客観的なデータに基づいて経営判断を下すという、もう一人の自分を持つことが不可欠です。この意識的な役割の切り替えこそが、当事者性を強みとして活かしつつ、その罠に陥ることを避けるための知恵なのです。
第5部:持続可能な組織への変革 — 課題を乗り越えるための戦略的提言
これまで分析してきた理念、制度、運営、心理にまたがる構造的な課題は、設立者の善意や情熱だけでは乗り越えることができません。しかし、これらの課題は、決して克服不可能なものではありません。課題の構造を正しく理解し、意識的かつ戦略的な対策を講じることで、個人的な情熱を持続可能な社会的インパクトへと変えることは可能です。最終部では、これまでの分析を踏まえ、具体的かつ実践的な解決策を提言します。
5.1. 堅牢なガバナンス体制の構築:透明性と信頼の制度化
個人的な信頼関係に依存した非公式な運営から脱却し、組織の透明性と公正性を制度的に担保する堅牢なガバナンス体制を構築することが、持続可能な組織への第一歩です。
- 多様性のある理事会の組成: 意思決定が設立者や少数の当事者メンバーに偏ることを防ぐため、多様な視点と専門性を持つ理事会を組成することが極めて重要です。当事者の視点に加え、法律、会計、広報、ファンドレイジングなどの専門知識を持つ外部の理事を積極的に招聘すべきです。これにより、意思決定の質と客観性が高まり、組織運営のリスク管理能力が向上します。
- 監事機能の実質化: NPO法で設置が義務付けられている監事を、単なる名誉職や形式的な存在にしてはなりません 11。監事には、理事や職員を兼務できない独立した立場から、理事の業務執行や法人の会計状況を厳しく監査する役割があります 14。定期的に会計監査や業務監査を実施し、その結果を理事会および最高意思決定機関である社員総会に報告するプロセスを制度化し、徹底することが求められます。監事が独立した立場から忌憚のない意見を述べられる組織文化を醸成することが、不正やガバナンス不全を防ぐための生命線となります。
- 徹底した情報公開と説明責任: 組織の信頼は、透明性から生まれます。NPO法で義務付けられている事業報告書や決算書類を所轄庁へ提出し、市民の閲覧に供することは最低限の義務です 12。それに加え、ウェブサイトなどで積極的に活動内容や財務状況を公開し、支援者や社会に対して説明責任(アカウンタビリティ)を果たす姿勢が不可欠です 25。受益者、寄付者や会員といった支援者、そして広く一般市民からの信頼を多層的に獲得することが、組織の存続基盤を強固にします 26。可能であれば、総会や理事会の議事録の要旨を会員向けに公開するなど、意思決定プロセスの透明性を高める努力を続けるべきです。
5.2. ミッション・ドリブンな組織文化の醸成:個人の物語から組織の物語へ
設立者の個人的な経験やカリスマ性に依存した組織は、その人が去ると同時に衰退します。組織が永続するためには、個人の物語を超えた、共有された「組織の物語」、すなわちミッションに基づいた組織文化を醸成する必要があります。
- 成文化されたミッション・ビジョン・バリュー: 第1部で論じたように、設立者の個人的な経験を、より普遍的で社会的な課題として捉え直したミッション(組織の存在意義)、ビジョン(組織が目指す社会像)、バリュー(組織が大切にする価値観・行動規範)を策定し、明確に成文化します。そして、これを単なる「お題目」に終わらせず、日々の活動計画の策定、新規事業の判断、メンバーの採用や評価など、あらゆる組織活動の判断基準として一貫して活用します。
- 参加と継承の仕組みづくり: 組織が設立者の私物とならないよう、新規メンバーが組織の意思決定に実質的に参加できる明確なプロセスを設計することが重要です。例えば、新メンバー向けのオリエンテーションを充実させ、組織の歴史や理念を共有する機会を設けたり、重要な意思決定の前にメンバーから広く意見を募る仕組みを導入したりすることが考えられます。さらに、最も重要な課題の一つが、リーダーシップの継承です。設立者に権限が集中する体制から脱却し、次世代のリーダーを計画的に育成・発掘し、円滑に権限を移譲していくための後継者育成プログラムを早期に導入することで、組織の属人化を防ぎ、永続性を確保します。
5.3. 財政的自立と事業モデルの多様化:善意の経済化
善意だけでは活動を継続できません。財政的な自立は、組織が外部の意向に左右されず、自律的にミッションを追求するための必須条件です。
- 収入源のポートフォリオ化: 単一の収入源に依存する財政構造は極めて脆弱です。会費や個人からの寄付に過度に依存するのではなく、収入源を多様化する「ポートフォリオ」の考え方を導入すべきです。具体的には、①会費・寄付、②行政や民間財団からの助成金、③ミッションと整合性のとれた独自の収益事業、④企業との連携事業などを戦略的に組み合わせ、特定の収入源が途絶えても組織運営が揺らがない、安定した財政基盤を構築することを目指します。
- 成功事例に学ぶ事業モデルの検討: 資金調達のノウハウがない状態から、独自に収益事業を立ち上げることは容易ではありません。まずは、他の当事者団体、NPO、あるいは生活協同組合などが実践している多様な成功事例を徹底的に研究することが有効です。例えば、高齢者や障がい者向けの有償ボランティアによる生活支援サービス、地域住民を対象としたレストランや居場所の運営、食育に関する出前授業、生協の宅配事業と連携した見守り活動など、社会的なニーズと事業性を両立させたモデルは数多く存在します 27。これらの事例から、自団体のミッションやリソースに応用可能な事業モデルのヒントを得て、小規模な実証実験(パイロット事業)から始めてみることが推奨されます。
5.4. 外部との戦略的連携:孤立から協働へ
組織が内にこもり、排他的になることを防ぎ、社会的な影響力を最大化するためには、外部の多様な主体との戦略的な連携が不可欠です。
- 専門家との対等なパートナーシップ: 専門職を「敵」や「支配者」と見なすのではなく、団体の自律性を担保した上で、対等なパートナーとして協働関係を築くべきです。例えば、団体の運営に助言を与えるアドバイザリーボード(諮問委員会)への参加を依頼したり、特定のプロジェクトごとに業務委託契約を結んだりするなど、役割と責任を明確にした上で協力関係を構築します。専門家の知見を尊重しつつも、最終的な意思決定権はあくまで団体が保持するという毅然とした姿勢が重要です。
- セクターを超えた連携の模索: 現代の複雑な社会課題は、一つの組織だけで解決することはできません。行政、地域の社会福祉協議会 29、課題解決に関心を持つ企業 30、そして同じ分野や異なる分野で活動する他のNPOなど、セクターを超えた連携を積極的に模索すべきです。連携によって、不足しているリソース(資金、人材、場所など)を相互に補い、専門的なノウハウを学び合い、共同で政策提言を行うなど、単独では実現不可能な大きな社会的インパクトを生み出すことが可能になります。孤立を恐れず、積極的に外部との対話の窓口を開くことが、組織の成長と発展の鍵となります。
結論:個人的情熱を社会の資産に変えるために
本報告書で明らかにしてきたように、「自分の困りごとを解決するため」という極めて個人的な動機からボランティア団体を立ち上げる際には、理念の昇華、法制度の遵守、組織運営の確立、そして特有の集団心理の克服という、各側面に根深い構造的課題が内在しています。これらの課題、すなわち「隘路」は、設立者の善意や情熱の強さだけでは乗り越えることができない、普遍的な挑戦であると言えます。
しかし、強調すべきは、「自分の困りごと」という動機は、決して否定されたり、隠されたりすべきものではないということです。むしろ、それは社会の歪みや制度の不備を誰よりも敏感に察知した証であり、社会を変革するための最も真正で、最も強力なエネルギー源に他なりません。問題は動機の純粋さにあるのではなく、その初期衝動の熱量を、いかにして持続可能で社会的なインパクトを持つ「組織」という公的な器へと、意識的かつ戦略的に変容させていくかというプロセスにあります。
そのプロセスとは、要約すれば、主観を客観によって補完し、情熱を制度によって支える営みです。
個人的な経験という主観的な物語を、社会全体の課題という客観的なミッションへと普遍化すること。
仲間内の信頼という非公式な関係性を、多様な人々が公正に参加できる民主的な手続きとルールによって制度化すること。
そして、設立者の強いリーダーシップという情熱を、透明性の高いガバナンスと徹底した情報公開によって社会的な信頼へと転換すること。
これらの一連の変容プロセスを経て初めて、設立者の個人的な救済の物語は、特定のグループの利益を超え、社会全体の貴重な資産へと昇華されます。本報告書が提示した課題と提言が、その困難かつ創造的な旅路に挑むすべての実践者にとって、道筋を照らす確かな指針となることを切に願います。
引用文献
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- NPO運営のガイドラインQ&A - 地域しごとサポートセンター阪神105(トーゴ), 8月 21, 2025にアクセス、 https://ikisapo105.com/npoqa/
- 基礎知識・Q&A - 日本NPOセンター, 8月 21, 2025にアクセス、 https://www.jnpoc.ne.jp/activity/npo-supporter/to-know/faq/
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- 【お知らせ】年度始めに確認しておきたいNPO法人のガバナンス3選!をご紹介~ベーシックガバナンスチェック評価基準より~ | 公益財団法人日本非営利組織評価センター(JCNE), 8月 21, 2025にアクセス、 https://jcne.or.jp/2021/04/19/news-17/
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