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Obsidian と 思考の整理学

思考のためにはどんなノート(メモ)術がよいのか、よりよいアイデアを出すために必要な思考方法とは、などそんなことを考えたことが皆さんあるのではないでしょうか。

今回はデジタルツールのObsidianと、外山滋比古氏の「思考の整理学」の手法を用いることで思考をシステム化する方法をAIと議論してまとめてもらいました。


思考の漸近的深化と知的代謝の統合モデル:理論・哲学・実践

1. 思考深化の多角的理論背景

思考がどのように深まり、展開していくのかを解明するために、現代の科学と伝統的な哲学の知見を統合します。

脳神経科学:二つのネットワークの「対話」

私たちの脳には、思考のスタイルを決定する二つの主要な回路があります。

  • 実行機能ネットワーク (ECN): 論理的思考、計算、集中を司ります。特定の答えに向かって一直線に進む「集中的思考」です。
  • デフォルト・モード・ネットワーク (DMN): ぼんやりしている時や、特定の作業をしていない時に活発になります。記憶を整理し、一見無関係な情報同士を結びつける「拡散的思考」を担います。
  • 深化のメカニズム: 優れた思考は、ECNで徹底的に考え抜いた後、あえてDMNにバトンタッチして「寝かせる」ことで、潜在意識下での情報の結合(閃き)を待つという往復運動から生まれます。

心理学:二重過程理論とメタ認知

  • システム1(速い思考)とシステム2(遅い思考): 直感的なシステム1は素早く答えを出しますが、偏見に陥りやすい。論理的なシステム2は正確ですが、多大なエネルギーを消費します。
  • メタ認知: 自分が今「すぐに答えを出そうとしていないか」「バイアスに囚われていないか」を客観的に観察する能力です。この「客観視」こそが、思考を一段高い抽象度へと引き上げるレバーになります。

哲学:真理への「漸近(ぜんきん)」

  • 弁証法: ある主張(正)に対し、矛盾する視点(反)をぶつけ、それらを包摂した高い結論(合)を導き出します。
  • 現象学的還元: 自分の思い込み(エポケー)を一時停止し、物事が意識に現れるありのままを記述します。これにより、問題の「本質」を捉え直すことが可能になります。

2. 漸近的深化メソッド:少しずつ答えに近づく

「一発で正解を出す」というプレッシャーを捨て、柔軟に答えを修正し続ける考え方です。

螺旋状の反復(イテレーション)

思考は直線ではなく、同じ問いの周囲を旋回しながら深まる「スパイラル構造」を持ちます。

  • プロトタイピング: 多くの未完成な答えをまず出し、それを現実や他者と戦わせることで、徐々に解像度を上げていきます。

ベイズ的更新

統計学の考え方を応用し、新しい情報が入るたびに「自分の仮説の正しさ」を常に更新し続ける手法です。

「間違いを犯さないこと」よりも「情報を元に素早く軌道修正すること」を最優先します。

ネガティブ・ケイパビリティ

答えの出ない、不確実な状況の中に留まり続ける力です。安易な結論に逃げず、「わからない」という空白を保持し続けることで、より大きな真実が流れ込んでくるのを待ちます。


3. 外山滋比古『思考の整理学』の哲学

1983年の刊行以来、日本の知的生産のバイブルとされる本書は、「情報の代謝」の重要性を説いています。

グライダーから飛行機へ

  • グライダー人間: 知識を詰め込み、誘導されるまま飛ぶ人。
  • 飛行機人間: 自らエンジンを持ち、独自の問いを立てて飛翔する人。 思考の整理の目的は、受動的な知識収集から、能動的な「自走する知性」へと進化することにあります。

発酵(寝かせ)と孵化(インキュベーション)

外山氏は、アイデアを「ビールや味噌の発酵」に例えました。

  • 情報の寝かせ: 手に入れた情報をすぐに加工せず、時間を置いて「発酵」させる。
  • インキュベーション: 徹底的に考えた後、あえて「忘れる」ことで、無意識という孵卵器の中でアイデアが形になるのを待ちます。

忘却の美学(捨てる勇気)

外山氏が最も強調したのは「整理とは捨てること」です。知識を溜め込むだけでは「倉庫番」になってしまいます。不要なものを潔く「忘れる(捨てる)」ことで、頭の中に新しい思考が入り込む「風通し」を作ります。


4. デジタル実践:Obsidianによる「思考の精錬所」

デジタルツールObsidianを、単なるメモ帳ではなく「思考を純化させるためのシステム」として運用します。

Obsidianの特長

  • ネットワーク構造: フォルダでの分類ではなく、[[リンク]]による接続を重視します。これは脳の神経ネットワーク(シナプス)の働きをデジタル上で再現するものです。
  • テキストベース: 軽い動作で、数十年後も閲覧可能なMarkdown形式を採用しています。

濾過(ろか)としての三段階ワークフロー

外山氏の「一次・二次・三次ノート」をシステム化します。

  1. 一次:INBOX (採集): デイリーノートへ、フィルターを通さず情報を放り込む。ここは情報の「生ゴミ」があってもよい場所です。
  2. 二次:Development (昇華): 数日後に読み返し、価値があるものだけを自分の言葉で書き直して別ノートにします。この「手間の摩擦」が不純物を取り除きます。
  3. 三次:Evergreen (結晶化): 複数のノートと結びつき、抽象度が高まった「磨き上げられた知恵」のノート。

デジタル・メタボリズム(代謝)の技術

  • 検索除外(Excluded Files): 役割を終えたノートを「Archive」フォルダへ移し、検索結果に出ないように設定します。これにより、「消去」せずとも「忘却」をシステム的に再現できます。
  • リンクの剪定: グラフビューで孤立しているノートを定期的に削除し、常に「活発に繋がっている知識」だけを保持します。

5. 総括:知性の質は「循環」に宿る

優れた思考とは、情報を多く持つことではなく、「いかに効率よく、不純物を捨て去り、純度の高い知恵を抽出するか」という代謝のプロセスそのものです。

「すぐに答えを出したい」という本能的な欲求を、アジャイルな漸近的アプローチによって制御し、外山流の「忘却と発酵」をObsidian上でシステム化することで、あなたの思考は単なる情報の集積を超え、独自の洞察を生み出す強力な「エンジン」へと進化します。


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