よんなーハウス

檸檬

この小説の舞台は大正時代の京都、主人公は肺の病を持つ憂鬱な学生。

彼が好きなのは、みすぼらしくて美しいもので、街の中も寂れた裏通りを歩くことを好む。

そしてお金がないのでだいたいはウィンドウ・ショッピングでごまかす。

花火にありがちな安っぽい絵の具の縞模様を見るとか、そこの二階窓から見える近所の果物屋の果物達を見るとか。

この主人公は色には敏感で、その果物屋にたまたま飾られていた檸檬の単純なレモンイエロウに惹かれて1個購入する。

檸檬は色の他に、形も良いし、何より重さがいいのだそうだ。

その檸檬で気分を良くした主人公はそれまで避けていた丸善に入ってみる。

入ったはいいが、檸檬効果は消えて、気分はどんどん塞いでいく。

元気な頃には一番好きだった画本コーナーに行くのだが、画集を手にしてもただパラパラとするだけで見る気がおきない。

棚から抜いてきた画集を元に戻す気力もなく、手元にだんだんと積み重ねていく。

そこで主人公は思った。この画集をゴチャゴチャ積み上げて、色彩の塔をつくり、その上に単純なレモンイエロウの檸檬を据えることを。

そのあと主人公は画集の塔と檸檬をそのままにして店を出る。

そして想像する、あの檸檬は実は爆弾で10分後には爆発し、店が美術の棚を中心に大爆発するのだと。

10分後には主人公の積み上げた画集と檸檬に店員が気づき、店中が驚くということだろうか。

おそらく主人公は苦手としていた丸善をそれで攻略したのだろう。

主人公は最後に、活動写真の看板画が奇体な趣で彩られる道を下っていくのである。

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